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盛岡地方裁判所遠野支部 昭和62年(ワ)59号 判決

原告

日本信販株式会社

右代表者代表取締役

山田洋二

右訴訟代理人弁護士

及川卓美

被告

藤原昭一

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当時者の求めた裁判

一  原告

1  被告は、原告に対し、一三〇万二〇〇〇円及びこれに対する昭和六〇年八月二八日から支払済みまで年29.2パーセントの割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  リース業を営む会社である原告は、昭和六〇年二月二八日、訴外有限会社藤原(以下「訴外会社」という。)との間で、訴外東北メディア株式会社(以下「メディア社」という。)をサプライヤー(物件供給者)とする節電機(以下「本物件」という。)につき、原告を「賃貸人」・訴外会社を「賃借人」とする左記のような約定を含む。ファイナンス・リース(以下単に「リース」という。)契約を締結した。

① リース期間 借受証の交付日を起算日として八四か月(中途解約禁止)

② リース料 月額一万五五〇〇円(総額一三〇万二〇〇〇円)として、毎月二七日限り支払う。

③ 右支払を一回でも怠ったときは、残リース料全額につき、当然に期限の利益を失い、直ちに支払う。

④ 遅延損害金 年29.2パーセント

⑤ 賃借人は、物件の引渡を受けたときは、直ちにこれを検査したうえその借受証を賃貸人に交付する。物件に瑕疵があったときは、直ちにその旨を賃貸人に通知し、また右借受証にその旨を記載するものとし、これを怠ったときは、物件は完全な状態で引き渡されたものとみなし、以後賃貸人に一切の苦情を述べない。

⑥ 物件に瑕疵があったときでも、賃貸人の責任を求めることはしない。賃借人が、右事由によって損害を受けたときは、賃貸人のサプライヤーに対する損害賠償請求権を譲り受けて、サプライヤーとの間で処理解決する。隠れた瑕疵についても右に準じて処理解決する。

2  被告は、右同日、原告に対し、本件リース契約上の訴外会社の債務について連帯保証した。

3  原告は昭和六〇年三月訴外会社に対して本物件を引き渡し、同会社は同年七月末までに(正確には同月一〇日)原告に対して本物件の借受証を交付した。

4  しかるに、訴外会社は本件リース料を一切支払わない。

5  よって、原告は、連帯保証人たる被告に対し、本件残リース料(総額)一三〇万二〇〇〇円及びこれに対する期限の利益喪失の日の翌日たる昭和六〇年八月二八日から支払済みまで約定の年29.2パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因1ないし3について

(一) 訴外会社(被告が代表者)は、メディア社から勧められて本物件を導入することとし、昭和六〇年二月二五日、同社から提示された原告宛の請求原因1のようなリース契約の「契約書」につき、その「賃借人」欄に記名押印して、これをメディア社に渡した。被告は「連帯保証人」欄に署名押印した。

しかし、その際、メディア社との間で、その「リース期間開始日」欄及びリース料「お支払方法」欄は本物件の節電の効果を確認してから記入し、そのうえで右「契約書」を原告に交付する、という約束をして、右各欄は空白のまま右「契約書」を渡したものである。訴外会社(及び被告)としては、右の「リース期間開始日」欄を記入しないうちはリース契約は成立しない(あるいは効力を生じない)ものと考えていた。

(二) 訴外会社は、右「契約書」と併せて本物件の借受証についても「賃借人」欄に記名押印してメディア社に渡したが、前同様の約束のもとに、その「リース期間開始日」欄及び「借受日」欄も空白のままであった。

(三) 本物件は昭和六〇年三月中にメディア社によって設置されたが、その後、その節電の効果が確認できないうちに、同社が、訴外会社に無断で、前記の契約書及び借受証を空白欄も記入して(但し、借受証の「借受日」欄はなお空白のままで)原告に交付してしまったものである。

2  請求原因4の事実は認める。

三  抗弁

1  本件の節電機なるものは、これを設置すれば節電の効果があるというものであり、訴外会社としても、メディア社から、本物件を設置すれば少なくとも二〇パーセント程度の節電の効果があると勧められたからこそ、これを導入することにしたのであるところ、本物件は、前記設置後、同社が何度か調整を試みたものの、節電の効果は全くないままであった。

2  そこで、訴外会社は、メディア社に対し、昭和六〇年八月二二日到達の書面で、右のような理由により本物件についての(売買)契約を解除する旨の意思表示をするとともに、原告に対し、右同日到達の書面で、右解除の件と本件リース契約の申込みを撤回する旨及び本件リース料の支払はしない旨とを通告した。

3  本件のような場合に、原告がリース物件の瑕疵についての免責特約を主張するのは、信義則に反して、許されない。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁のうち、訴外会社から、原告に対し、昭和六〇年八月二二日、被告主張のような書面が到達したことは認めるが、その余は否認し又は争う。

2  仮に被告主張のような瑕疵があったとしても、訴外会社は、右瑕疵のことなど全く記載せずして前記のとおり借受証も交付したのであるから、請求原因1⑤、⑥の免責特約が働く。

第三  証拠〈省略〉

理由

一甲第一号証については、被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によって、少なくとも「リース期間開始日」欄及びリース料「お支払方法」の「初回」、「二回目」欄を除けば成立が認められるところ、右甲号証(右除外部分は除く。)証人高橋茂の証言及びこれにより成立(原告作成)を認める甲第三号証によれば、請求原因1(本件リース契約)及び2(被告の連帯保証)の各事実(なお、本件リース契約の契約書が右甲第一号証である。)が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

二被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、本物件は、昭和六〇年三月中に、メディア社が訴外会社の店舗に設置したことによって、原告から訴外会社に引き渡されたものと認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

そして、甲第二号証については、被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によって、少なくとも「リース期間開始日」欄を除けば成立が認められるところ、右甲号証(右除外部分を除く。)、前掲証言及びこれにより成立(原告作成)を認める甲第四号証、被告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、訴外会社は、昭和六〇年二月二五日、本物件の「引渡しを受け、本日正に借受けました。」との記載がある原告宛の「借受証」(右甲第二号証)の「賃借人」欄に記名押印して、これをメディア社に渡し、同社はこれを同年七月一〇日ころ原告に交付したこと、なお、原告は、右のようにして交付を受けた借受証を信じて、その直後、メディア社から本物件を購入し、その代金も支払ったこと、これらの各事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

そうとすると、訴外会社は、請求原因1でいう借受証の交付も、右同日ころなしたものということができ、本件リース契約については、原告主張の如く遅くとも同年八月一日には、リース期間が開始し、リース料の支払義務も具体的に発生したものというべきである。

三抗弁について

1  〈証拠〉によれば、抗弁1の事実(本物件の瑕疵)が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  ここで、右のような瑕疵があるにしても、本件リース契約には請求原因1⑤、⑥のような免責特約がある(そして、却って、前掲甲第二号証によれば、前記のようにして原告に交付された借受証には、瑕疵のことなど全く記載されていなかったことが認められる。)から、訴外会社としては、原告に対し、右瑕疵を理由としてリース料の支払を拒んだり担保責任を追及したりすることはできないのではないか、ということが問題となる。

3  なるほど、リースの金融的性格等に照らして、右のような免責特約は合理的根拠があって有効なものであること、多言を要しない。

しかし、本件において原告が右特約を主張するのは、信義則に反して、許されないというべきである。項を改めて述べる。

4  〈証拠〉によれば、次のとおり認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

原告は、昭和五九年六、七月ころから、メディア社をリース取引のサプライヤーとしての加盟店とし、同社の商品の顧客との間でリース契約をなして来ていた。しかも、その顧客へのリース契約書の提示とか、その顧客からの右契約書及び借受証の受領とかは、自ら直接にはなさず、メディア社を通じてなしていた(もちろん本件の場合もそうである)。

本件リース契約の契約書(甲第一号証)及び借受証(甲第二号証)については、訴外会社は、これらを昭和六〇年二月二五日にメディア社に渡したのであるが、その際、同社との間で、本物件の節電の効果を確認できてから、「リース期間開始日」欄を記入し、しかるのちに原告に交付する、という約束であった(従って、右欄は空白のままであった)。

ところが、前記のとおり右効果を確認できないうちに、メディア社は、訴外会社に無断で、右契約書及び借受証の「リース期間開始日」欄に昭和六〇年四月二七日と記入して、これらを前記のとおり同年七月一〇日ころ原告に交付してしまった。もっとも、借受証の「借受日」欄はなお空白のままであった。

その後の同年八月初めころ、原告が訴外会社に対しリース料の初回支払日が同月二七日であると通知したところ、それまで契約書とか借受証は原告には渡っておらずリース契約は効力を生じていないと考えていた訴外会社は、驚き、同月二二日到達の書面で、メディア社に対しては、前記のような瑕疵を理由に(売買)契約を解除する旨通告し、原告に対しては、右解除の件と本件リース契約の申込みを撤回する旨及び本件リース料は支払わない旨とを通告した。

原告は、本件以前にも、メディア社とユーザーとの間でリース物件たる節電機の効果をめぐってトラブルが生じたのに接したことがあった。また、原告としては、本件のように借受証の交付を受けるのがリース契約日から約五か月ものちになるというのは、異例のことであった。

なお、訴外会社は、食料品等の小売業で、小規模の個人的企業である。

右認定の諸事情、ことに、原告と提携関係のあったサプライヤーたるメディア社が訴外会社との約束に反して借受証を原告に交付したがために、訴外会社としては瑕疵のことを記載せぬまま借受証を交付するという結果になったものといえること、原告が借受証を単純に信じたについては、それまでのメディア社との取引経過、借受証が届くのが異例におくれたこと、その「借受日」欄も空白であったことなどからして、軽率な面があったといえること、などに照らして、前記のような重大な瑕疵についてまで原告が前記免責特約を主張するのは、信義則に反して、許されないというべきであり、訴外会社は、右重大な瑕疵を理由に、賃貸借に準じて(リース契約には賃貸借的性格もあることは否めない。)、少なくとも、右瑕疵が修補される(メディア社によってであろうが。)まで、本件リース料の支払を拒み得るものと解するのが相当である。連帯保証人たる被告も右支払を拒み得ること、もちろんである。

四以上の次第で、原告の本訴請求は、その余の点について検討するまでもなく理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官貝阿彌誠)

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